Where is the light (that never goes out) ?

いつでもテイクミーアウト

死ぬ直前に聴きたい曲ってなに?

そう訊ねられたのでスマホを取り出してApple Musicで表示すると、「へー、死ぬ前に聴きたいのが英語の曲ってなんかかっこいいね! あ、ジャケットの写真撮っていい?」と無邪気に言われた。

べつにかっこよくなんてない。
気取ってるとか、暗い曲がすきな自分に酔ってるとか思われたくないから、この世でいちばんすきなバンドの話を自ら進んですることはあまりない。

人生でなんども命を救ってくれた曲の名前は、相手が大切な人であればあるほど教えたくない。
だってあなたがこの曲をすきになってしまったら、同じ歌詞を口ずさみながら夜を過ごすようなことがあったら、いずれあなたを失ったときわたしはこの曲を聴けなくなってしまう。



1年ほど前、仲のいい男友達をうっかりすきになってしまったとき、その悲劇は起きた。
お互いに好意を持っていた時期はあったけれど、タイミングが合わなかったのだ。

出会ったばかりのころは、彼のことを「音楽の趣味も合うし顔も超タイプだけど性格が最悪。だから最高の友達」と思っていた。
いつだったか近所のバーでDJごっこをして遊んだ日、朝方まで飲んでおかしなテンションになっていたので「ほんとうのほんとうにすきな曲を流そう」といって、わたしと彼とお店のスタッフさん、それぞれが思い出の曲をかけた。
それを彼はちゃんと覚えていて、一緒に飲んでいるとき度々、わたしが世界でいちばんすきなその曲を流してくれた。

前の前の恋人と別れたばかりのとき、彼はわたしをデートに誘ってくれたけれど、当時は友達としか思っていなかったのでそれとなく理由をつけて断ってしまった。
そのちょうど1年後くらいに、こんどはわたしが彼に惚れてしまったのだけど、彼はそのとき別の女の子といい感じになっていた。

わたしは彼にバレンタインのチョコを渡したり複数人での飲みに誘ったり、それとなくジャブを打ってみたものの、まったく手応えがなくて心が折れた。
彼はわたしの心情を知ってか知らずか、いつもの店で会うと謎のスキンシップをかましてきたり、人が少ない日は例の曲をかけたりしてきやがった。
振り回されて疲れたわたしは、恋に落ちて2ヶ月も経たないうちにスッパリ彼のことを諦め、ほどなくして別の人と付き合い始めた。彼にも年下のかわいい彼女ができた。

狭いコミュニティなので、3ヶ月前にわたしが元恋人と別れたときも情報は瞬く間に駆け巡った。
彼から「飲み行こうよ」と誘われて、前から気になっていた渋谷の焼き鳥ソウルバー(なんじゃそりゃという感じだけど、その名の通りおいしい焼き鳥が出てくるソウルバーである)に行った。

彼は「俺も〇〇さんのこと友達としては好きだけど、あの人まじでどうしようもないからな。早めに別れてよかったじゃん。次、次」とわたしを慰めた。

そっちはどうなのよ、と訊くと、まだ付き合ってるよ、今度箱根行くし、とのことだった。それはそれは何よりです。
と思っていたら、彼は何杯目かのワインを飲んで酔っぱらったのか、おもむろにこんなことを言い出した。

「今だから言うけどさ、俺たぶん2年くらい前ふーちゃんのことすきだったんだよね」

おいおい。ちょっと待て。

「…うん。なんとなくわかってたよ」

いや、わたしもしみじみ言うな。変な空気になるだろ。

「周りにも、ふーちゃんのことすきなんでしょって言われてたしなー」

なぜ今それを言う。なぜ彼女がいる身で、わたしが失恋したばかりのタイミングでそれを言う。

安全圏から見下ろしてんじゃねーよ。
エゴとエモに酔ってんじゃねーよ。
お前は十分魅力的だから大丈夫だよ、って元気づけたかったなら伝え方間違ってんぞ。

わたしは「彼女と仲良くしろよ」と笑ってフラグをバキバキに折った。冗談じゃない。
そんなことで流されてたまるかよ。

いてもたってもいられず、彼が煙草を買いに外へ出て行った隙に、恋愛ってタイミングだよね、みたいなことをTwitterに書いた。
彼の無責任な発言のせいで、わたしの情緒はその後数日にわたってぐちゃぐちゃになった。



白黒はっきりつかない、境界の曖昧なグラデーションみたいな感情がごくたまに生まれる。
お世辞にもきれいとは言えない、複雑に濁った、でも切り捨てられず心の隅に置いておくような感情。

この場所では、そういうあまり大っぴらには書けない心の内をひっそり綴ろうと思う。
もちろん、毎回毎回こんな胃もたれしそうなエピソードを書くつもりはないし、ネタもないので書けないけれど。

なんの話だっけ?
そうだ、この世でいちばんすきな曲の話だった。

ブログのタイトルをどうするか迷っていたら、ついこの前友人と冒頭の会話を交わしたことを思い出して、そこから芋づる式にその曲にまつわる思い出、というにはきれいすぎるしわりと最近の話なので、記憶、そうだ記憶だ、をつらつらと書いた。
没頭していたら1時間くらい経っていた。
仕事しろ。